2025年5月14日(水)、NPO法人協力アカデミー代表理事・松原明さんをお招きして、組織運営力アップ連続講座『地域の困りごとを相利協力で解決しよう!』の第1回を開催しました。
今年の講座は、市民活動団体が企業や行政、市民、自治会等と連携協力して地域課題(地域の困りごと)を解決する方法を学び、同時に、地域共生社会づくりに求められる多主体連携(相利協力)の仕組みづくりを担う中間支援組織のスキルアップするため連続4回実施します。

講師の松原明さんは、1994年にシーズ・市民活動を支える制度をつくる会を創設し、特定非営利活動促進法(NPO法)の成立尽力をはじめとして、長年NPOに関する数々の制度設計や設立に関わってこられました。
本講座では、著書『協力のテクノロジー』(共著、学芸出版、2022年)で紹介されている「多主体連携」「相利協力」を軸に、中間支援組織(第1部)、市民活動団体、自治会等(第2部)それぞれに向けて講演いただきました。
この講座に参加した理由をお聞きした中では次のようなものがありました。
「普段実践しているNPOでの活動について、現状のあり方について擦り合わせ」
「今後、より地域に還元できる活動を目指すため体系的なノウハウを学びたい」
「中間支援組織としての基本的な役割・具体的な取り組み方を学ぶため」
かなり本気で参加したことが分かります。
長時間にわたった講座のポイントをご紹介します。
第1部 支援者(中間支援組織、行政等)向け講座(10:00~12:00)

第1部は中間支援組織や行政など支援者向けに、中間支援の現状やNPOの新しいステージ、中間支援が今後求められること、多主体連携とは何かを中心にご講演いただきました。
中間支援の現状について
現状のボランティアセンターでの中間支援は”ジリ貧”の状態であり、地方の中間支援組織が低迷している背景を解説していただきました。
中間支援とは?
「仲介者」異なるセクター・分野をつなぐためのもので、市民活動への支援、NPO支援には欠かせないものです。
地方の中間支援組織が低迷している背景
主に以下の様な要因があるとのことです。
- 中間支援の主な役割だった組織支援が一般に普及した
- 市民や企業などがNPOへの理解が深まり、中間支援に頼らなくても直接NPOとつながれるようになった
- 行政書士・税理士・ファンドレイザーなど各種専門家のネットワークによるNPO支援が行われるようになった
- 評価の基準が、アウトプット(数字的な成果指標)からアウトカム(実施したことによる効果・成果)に移行しつつあり、これに対応できていない
- 特に指定管理などは前例主義で新規事業を十分に作れず、サービスが時代遅れになった
- 企業の社会貢献活動の広がりにより、行政なども企業との共創へシフトしており、企業とのマッチングが推進されている
- 行政側の関心が地域コミュニティ再建に向き、NPO支援の優先度が低下している
- 中間支援組織は地域のNPOの代表だったのに、一事業者となってしまい、みんなの声を代表する性格を失うなど中間支援組織自体が弱体化した
今まで中間支援が担ってきた支援が必要されなくなったり、他の分野の人たちがやるようになって、中間支援の価値が低下してしまったこと。より優先度が高い事柄が生まれたことで、NPO支援の優先度が低下してしまったこと。
様々な要因が中間支援を苦境に追い込んでいるとのことでした。
これからの社会課題解決手法 多主体連携
ボランティアセンターなど従来の中間支援は低迷しているにも関わらず、中間支援自体のニーズは増大しています。多主体連携(プラットフォーム)はNPOが主となって実践することになります。
多主体連携が必要となってきている背景としては
- 社会課題の複雑化
- 各分野のリソース(担い手・財源など)の不足
- 地縁・共同体(つながり)の弱体化による社会問題の発生
複数の分野による支援の必要性、単独では取り組めない現状、地域課題の複雑化・深刻化など、多主体連携が必要な課題は数多くあります。
多主体連携は文字通り多くの主体がつながる必要性があります。ここに中間支援の必要性があるとのことです。今後、中間支援組織は多主体連携を引き出すスキルを身につけなければならないとのことでした。
相利とは?
本来、相利とは”相利共生”(生物学の用語)のことです。それぞれ別の利益を協力することで得られることで、例えばイソギンチャクとヤドカリの関係が相利共生だと言われています。
- イソギンチャク:ヤドカリが移動してくれて新鮮な餌を得ることができる
- ヤドカリ:イソギンチャクが外敵から身を守ってくれる
多主体連携を行うには、様々な主体が”相利”を満たすプラットフォームを形成(相利開発)する必要があります。
相利開発のためには、各団体の相利を視覚化する相利評価表(フレームワーク)を活用します。
熊本市の実例を元に、相利開発・相利評価表について解説いただきました。
第2部 市民活動団体、自治会等向け講座(13:00~16:00)

第2部では市民活動団体向けに「多主体連携」「相利」について、またそれを生み出す「相利開発」「相利協力」についてをご解説いただき、実際に多くの協力を引き出すために活用するフレームワーク(相利評価表)を体験するグループワークを行いました。
相利とは?(第1部に引き続き)
市民活動団体向けに”相利”について、地域猫活動の実例より相利と相利評価表を解説していただき、猫嫌いでも保護猫活動に参加してもらえる相利や仕組みなど、お話いただきました。
協力の引き出し方
よく協力をつくるために必要と言われるスキルがあります。例えば、上手なお願いや説得方法、相手を巻き込む力、相手に共感してもらうことなどがあります。
しかし、相利協力では重要でないスキルです。SNSで“いいね!”をしてくれても、直接助けてくれる訳ではないです。
協力を引き出すには、相手の利益を考えて”提案”することが重要です。
松原さんが、実際にNPO法を成立させるため、国会議員のみなさんを説得した際の実体験をお話しただき、解説していただきました。
相利開発のポイント
愛知県での実例を元に解説していただきました。
相利開発のポイントは”共有”できるもの(プラットフォーム)を作り出すことです。“共通”するものを探すのは大変で、関係者が増えるほど共通点がなくなってしまいます。
相利評価表を活用したグループワーク
今までの講話を元に、相利評価表を活用したグループワークを行いました。
最初に練習として個人ワークを行い、穴埋め問題となっている相利評価表の例題に、各参加者なりの答えを記入してもらいました。その後、個人ワークの内容を各グループ内で共有してもらいました。
次に、各グループに配布された空白の相利評価表の模造紙を活用して、グループの参加者で、相利評価表を作成してもらいました。

各グループで作成した相利評価表を全体で共有し、第2部は終了となりました。
参加した方の感想としては
「現在の活動にダイレクトに活かせそう」
「フレームワークはお互いを知るツールとして有効だと実感できました」
「追いつけないところもあったが、新しい思考を取り入れる事ができた」など
みなさん新しい発見があったようです。また今後の講座についても
「基本的な概念を理解できたので、具体的にどう取り組んでいけばいいのか学びたい」
「(話を)聞いてくれない人に対する相利協力の方法」
「多主体連携が目的になってしまった失敗事例も知りたい」など
より詳細に相利協力について知りたいとの意見が多かったです。
第2回『 地域の困りごとを相利協力で解決しよう!』は7月23日(水)です。準備ができ次第、ご案内いたします。
第1回に参加しなかった方でも大丈夫ですので、興味のある方はぜひご参加ください。
長崎市市民活動センターでは、ボランティア団体、NPO法人等のみなさんに役立つ研修を実施しております。「何か役立つ情報がほしい」など思った方はぜひご参加いただければと思います。



